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・脳微小環境によるDNMT1抑制が脳転移がん細胞の休眠と生存に関与する。

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​ がん脳転移は非常に効率の悪いプロセスであり、脳にたどり着いたがん細胞の多くは死滅したり休眠状態に移行することが知られています。私たちは脳転移がん細胞の1細胞遺伝子発現解析により、休眠状態にあるがん細胞がDNMT1阻害によって誘導される遺伝子発現パターンを呈していることを見出しました。脳は他の臓器とは大きく異なる細胞構成や環境を有していますが、これらのうち特に活性化アストロサイト由来の液性因子と脳組織のやわらかい力学的基盤が、脳転移がん細胞のDNMT1発現を抑制することを明らかにしました。興味深いことに、このDNMT1発現抑制は脳転移がん細胞の細胞周期進行を抑制するのみならず、がん細胞が脳微小環境において生存するために必要な遺伝子群の発現をも誘導することが明らかとなりました。特に、DNMT1の発現抑制によって強く誘導されるアポトーシス抑制因子・αB-crystallinの発現が、脳転移休眠がん細胞の生存維持に重要な役割を担っていることが明らかとなりました。

 本研究成果はがん脳転移に対してDNMT1阻害剤であるdecitabineが有効である可能性を示すとともに、αB-crystallinを標的とすることによって、治療が困難とされる脳転移休眠がん細胞を駆逐できる可能性を示唆するものです。

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 ​ヒトメラノーマ細胞株WM266.4(緑色)をヌードマウス心腔内に接種した際に誘導される、脳転移進展の4ステージ。青色は細胞核(DAPI染色)、赤色は増殖している細胞の核(Ki67染色)を示す。

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​ 脳転移がん細胞の1細胞遺伝子発現解析。各ドットが1つの遺伝子を示す。休眠がん細胞(赤色側)ではCRYAB (αB-crystallin) が高度に発現している

​ 脳転移休眠がん細胞はDNMT1阻害によって誘導される遺伝子発現パターンを呈しているが、マウスモデルを用いた解析ではがん細胞のDNMT1発現を抑制しても、がん細胞にDNMT1を過剰発現させても、心腔内接種から30日目の脳組織では脳転移の形成が抑制されていた。病理学的検索ではこの両者には違いがあり、DNMT1抑制では主に脳転移の進展が阻害されるのに対して (A)、DNMT1の過剰発現では脳転移巣の数のみが減少していた (B)。そこで親細胞株とDNMT1過剰発現細胞株を異なる蛍光タンパクで標識し、1:1の割合で混合してマウス心腔内に接種して脳転移を誘導したところ、接種から10日目の段階で既にDNMT1過剰発現細胞の多くは死滅していることが明らかとなった (C)。

 これらの結果から、DNMT1の発現抑制を介した脳転移がん細胞のリプログラミングが、その後の運命決定に重要な役割を担っていることが示唆された。

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​ αB-crystallinの発現はDNMT1発現抑制によって誘導され、特に高ストレス環境下と考えられる single cell (SC) / micro-cluster (MC) を形成する

がん細胞の生存に重要な役割を担っている。

Hirata et al., iScience 2020

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金沢大学がん進展制御研究所
​腫瘍細胞生物学研究分野 平田研究室

Division of Tumor Cell Biology and Bioimaging
Cancer Research Institute of Kanazawa University
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