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・双性イオン液体のライフサイエンスへの応用:溶媒革命によるDMSO依存からの脱却を目指して

​ ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide:DMSO)はライフサイエンス分野において非常に広く使用されている有機溶媒ですが、細胞に対して無視することのできない毒性を有していることも知られています。今回、金沢大学理工研究域・黒田研究室にて新規に開発されたヒスチジン類似構造を持つ双性イオン液体(zwitterionic liquid:ZIL)は、極めて生体適合性の高い液体であることが明らかとなりました。ZIL水溶液は様々な非水溶性薬剤に対する溶媒となりますが、特筆すべき事項として抗がん剤の一つであるシスプラチンに対する溶媒として機能します。これは世界初の高濃度プラチナ製剤の溶媒(= stock solutionの作製)として画期的なものです。またDMSOは細胞凍結保存培地への添加剤(氷晶形成防止剤)として広く利用されていますが、ZILは細胞外においてDMSOよりも格段に優れた凍結細胞保護効果を有することが明らかとなりました。

 今後、化学構造の改変や混合液体の作製、用途毎の最適化により、これまで困難であった臓器・組織を含む様々な生体材料の凍結保存が可能になると期待されます。また未分化能維持の観点からDMSOの使用が忌避されるES細胞・iPS細胞を含む幹細胞研究への応用など、双性イオン液体は21世紀のライフサイエンスを革新する可能性をも秘めています。

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(A) ZILの構造式。正式名称はOE2imC3C。

(B) DMSOは低濃度(1-2%)であっても生細胞への添加によって細胞周期に影響を与えることが知られています。その分子機構としては細胞内に取り込まれたDMSOがRbに直接結合し、その機能を阻害することが報告されています。ZILは分子動態シミュレーションから細胞内に移行しないことが明らかとなっており、低濃度での添加は細胞周期にほとんど影響を与えないことが明らかとなりました。

(C) 細胞凍結保存培地など、ライフサイエンスにおいては比較的高濃度(5-15%)のDMSOが使用されることがあります。我々の検討の結果、5% DMSOはゼブラフィッシュの発生に致死的な影響を及ぼすことが明らかとなりました。一方、5% ZILは造血機能も含め発生に影響を及ぼすことはなく、DMSOと比較して生体適合性の高い溶媒であることが明らかとなりました。

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 シスプラチンは水に難溶性の抗がん剤であり、低濃度シスプラチンが主に生理食塩水を溶媒として用事調整され使用されています。またシスプラチンはDMSOに溶解すると加溶媒分解(solvolysis)によって白金錯体が不活化され、DNAへの結合能(つまり抗がん剤としての効果)を失うことも知られています。今回、我々の研究によってZIL水溶液が高濃度シスプラチンの溶媒として機能することが明らかとなりました。

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 DMSOは細胞凍結保存培地への添加剤(氷晶形成防止剤)として広く利用されていますが、ZILは細胞外においてこの機能を代替すること、単剤であればDMSOよりも格段に優れた凍結細胞保護効果を有していることが明らかとなりました。

・CS-FM:市販の細胞凍結保存培地

・5% DMSO、5% ZILはいずれも水溶液

Kuroda et al., Communications Chemistry 2020

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金沢大学がん進展制御研究所
​腫瘍細胞生物学研究分野 平田研究室

Division of Tumor Cell Biology and Bioimaging
Cancer Research Institute of Kanazawa University
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