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​ BRAF変異を有する悪性黒色腫(メラノーマ)はBRAF阻害剤に極めて良好に応答しますが、ほぼ全例で再発が認められます。またBRAF阻害剤に対する初期応答の程度(つまり再発の母地となりうる生存がん細胞の数)も症例毎に大きく異なることが知られています。私たちは2光子励起蛍光顕微鏡を用いたマウス生体内FRETイメージングによりこの初期薬剤応答をリアルタイムに可視化し、腫瘍微小環境に存在するメラノーマ関連線維芽細胞(melanoma-associated fibroblast:MAF)がメラノーマ細胞のERK再活性化に重要な役割を担うことを明らかにしました。このERKの再活性化はBRAF阻害剤によるMAFの逆説的な活性化と関連しており、細胞外マトリックスの産生とリモデリングの亢進によりメラノーマ細胞におけるインテグリンβ1-FAKシグナル伝達経路が増強され、ERKの再活性化とBRAF阻害剤に対する耐性が引き起こされることが明らかとなりました。またこれを克服する治療法としてFAK阻害剤の併用が有効であることも示しました。

 本研究では「腫瘍局所に形成される薬剤耐性微小環境が初期応答を規定する」という概念("safe haven" モデル)を提唱し、私たちが臓器特異的な治療抵抗性微小環境に関する研究を展開するきっかけとなっています。また本論文はF1000 Prime に選出され、Science、Cancer Discovery、Nature Reviews Cancer など、数多くの雑誌にて特筆すべき報告として紹介されています。

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メラノーマ細胞(ERKバイオセンサーを発現:高い活性を赤色で表示)とMAFを

3次元スフェロイド共培養し、BRAF阻害剤(PLX4720)に対する応答をリアルタイムにモニタリングしている。メラノーマ細胞は一旦BRAF阻害剤に良好に反応するが、その後徐々にERKの再活性化が認められる。このような現象はMAFが存在しない場合は認められない。

BRAF阻害剤投与11日目のメラノーマ組織。細胞外基質のリモデリングによって形成されたコラーゲンの巣状構造(左図)によって守られるようにメラノーマ細胞が生存している(右図:ERK活性を描出)。

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メラノーマ薬剤耐性における「safe haven」モデル

 活性化された線維芽細胞が形成する薬剤抵抗性の腫瘍微小環境「safe haven」がBRAF阻害剤からメラノーマ細胞を保護し、メラノーマ細胞はこの内部で増殖を続ける。

一方、この「safe haven」から逸脱したメラノーマ細胞は死滅する。この増殖と死滅のバランスにより、全体として腫瘍の大きさが変化していないケースにおいても、実際にはメラノーマ細胞は「safe haven」の内部で増殖を続けており、やがて遺伝学的に強固な薬剤耐性を持ったクローンが出現する。

Hirata et al., Cancer Cell 2015

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金沢大学がん進展制御研究所
​腫瘍細胞生物学研究分野 平田研究室

Division of Tumor Cell Biology and Bioimaging
Cancer Research Institute of Kanazawa University
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